一人ひとりが、愉快な人生を歩むことを目指して〜平川理恵さん

INTERVIEW

(Release)2026年10月2日

女性初の公立中学校の民間人校長、広島県教育長などを務め、長く教育の現場に携わってきた平川理恵さん。SRHR for JAPANが普及を目指す「生命(いのち)の安全教育」について感じていること、考えていることを伺いました。

教育の選択肢を増やすために奮闘してきた

「教育とは、天性天分を見つけ出すことだと思っています」

そう話す平川理恵さんは、会社員、留学支援会社経営を経て、民間人女性初の公立中学校校長や広島県の教育長を務めた経験の持ち主。現在は「教育」「女性」「組織開発」をキーワードに、複数の企業や学校などの運営に携わっており、SRHR for JAPANキャンペーンのステアリングコミッティ(運営委員会)メンバーとしても活動中です。

「天性天分とは、一人ひとりが天から与えられた性質や才能のことで、生まれながらにして持っているもの。かれこれ30年ほど学んでいる東洋思想から来ている言葉です。たとえば『勉強はそれほどできないけれど、優しさは天下一品』という子もいますよね。つまり、一人ひとりのいいところを見つけて生かすことが教育の使命だと考え、校長時代や広島県教育長時代は、その実現に取り組んできました」

日本の教育の課題は「選択肢がないこと」だと話す平川さん。着るものや食べるものはこんなにチョイスがあるのに、教育にはほとんどないことを、長い間疑問に感じてきたそうです。

「『この地域に住んでいるならこの学校。嫌なら私立校へ』というのが通常だし、『学校に行きたくない』となったら、自分でフリースクールを探して行くしかない。でも本来、子どもたちは一人ひとり違うのだから、もっと選択肢を用意することが必要です。そうした考えのもと、校長時代や広島県教育長時代に校内フリースクールや県運営のフリースクールの設置、国際バカロレア認定校やイエナプラン*教育校の設立などを行ってきました」

*ドイツで始まりオランダで広がった、一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶオープンモデルの教育

「生命(いのち)の安全教育」は、コミュニケーション教育

2026年6月、プラン・インターナショナルは、宮城県南三陸町教育委員会の協力のもと、町内すべての公立小学校6年生と中学校3年生を対象に「心と体を守る教育」のパイロット授業を実施しました。これは、文部科学省が推進する「生命(いのち)の安全教育」をより包括的に展開するための取り組みの一環です。この授業を視察した平川さんは、どんな感想を持ったのでしょう。

「どの授業も『そもそも人と人の関係とは』というところから丁寧に学んでいるのが印象的でした。中学校では人と人との間の境界線(バウンダリー)や同意の方法などについての授業だったのですが、デートDVやSNS上でのトラブルなど、具体的・実践的な例を取り上げているのがとてもいいなと思いましたね。

小学校の授業は、自分の体や相手の体を大切にすることを、動画教材やワークを通じて学ぶのが主な内容でした。『困ったときに誰に助けを求めるか』を一人ひとりが考えて書き出すというワークがあったのですが、『親戚のおじさん』と書いた子に対して隣の子が『その人は信用できるの?』と聞いている場面も。具体的な解決策にまで落とし込む授業内容だと感じましたし、子どもたちも自分事として考え、真剣に参加している様子がうかがえました。

授業を視察して感じたのは、『生命(いのち)の安全教育』とは単なる性教育ではなく、コミュニケーションスキルを学ぶものだということ。自分や相手との距離の取り方、皆も自分も心地よく生活できるためのコミュニティのつくり方、そういったライフスキルを学んでいく。つまり、これは民主主義を学んでいることだと思うのです」

  学んだ内容を社会における共通認識に

最近の子どもたちについて、特にコロナ禍以降はコミュニケーション力の低下を感じているという平川さん。さらに昨今、コミュニケーションツールが多様化し、情報が氾濫して善悪の区別もつきづらくなっている中、「生命(いのち)の安全教育」はますます重要になるはず、と話します。

 

「『人と接するうえで、最低限これだけは大切にしましょう』『これだけはしてはいけません』といった共通認識を持っておくことが、これだけ価値観が多様化している社会の中で大事になってくると思います。『生命(いのち)の安全教育』こそが、その共通の価値観づくりの基盤になるのではないでしょうか。

 そのためには、子どもだけでなく、大人も学ぶ必要があります。学校側も保護者とさまざまな形でコミュニケーションを取りながら、この内容を伝えていく必要があると思いますね。

 一方、「生命(いのち)の安全教育」を全国に広めていくためには、さまざまな工夫をしていかなければいけない、と平川さんはいいます。まずは単なる性教育ではなく、コミュニケーション教育であることを学校現場や保護者に知ってもらい、理解を促す。また、外部講師を積極的に活用し、教員の負担を減らすことも必要です。

 「この内容を実際に子どもに教えるには、事前に先生たちがかなり勉強しなければなりません。現場の先生たちはとても忙しいのが実情です。少しでも教員の負担を減らし、積極的に導入してもらうために、少なくとも最初のうちは外部講師に力を借りる必要があると思います。

 いずれこの教育が全国の学校に根づけば、これはライフプランニングの授業にもなると思います。海外の一部では、子どもの時から学校の授業でライフプランニングについて学びます。つまり、自分の人生を楽しく歩んでいくためのライフプランの立て方を考えるのです。人生100年時代、どんな生き方を選び取っていくかを学ぶことは、ますます重要になってくると思います。『生命(いのち)の安全教育』は、間違いなくそうした学びの一環になるでしょう」

一人ひとりの心が生きる、そんな社会のために

先日、国際機関「世界経済フォーラム」が発表した2026年の「ジェンダー・ギャップ指数」では、日本は145カ国中117位。依然として低迷が続いています。自身も娘を持つ身であり、この状況を重く見ている平川さんは、「生命(いのち)の安全教育」の普及、そしてSRHRの実現を通じて日本社会が変化することに期待しています。

 「日本ではまだまだジェンダー不平等や、それに基づく偏見・思い込みが根強く、女性の自己肯定感も低いと日々感じています。それはやはり、私たち一人ひとりが自分の体について、また人と人との関係性やコミュニケーションについてきちんと学んでこなかったことが影響しているのではないでしょうか。

自分自身や相手を尊重しながら、心を開き、お互いに認め合って対話をしていけば、きっとジェンダーギャップも解消され、社会はよりよくなるはず。そのために必要なのが『生命(いのち)の安全教育』なのだと思います」

自分や相手の心と体を大切にする。私たち一人ひとりがその意識を持てば、きっと社会はずっと生きやすく、心地よいものになるはず。平川さんはそう信じています。

「性という字は、「りっしんべん=心」に「生きる」と書きますよね。性はジェンダーやセックスのことだけでなく、どうすうれば一人ひとりの心が生きるかということでもある。SRHR(性と生殖に関する健康と権利)には、そうした意味も含まれていると私は思っています。

目指すのは、一人ひとりがさまざまなコミュニティに出入りしながら、愉快な人生を送ること。愉快とは、単に楽しいというだけでなく、それぞれの知的好奇心が満たされること、つまりさまざまな人と出会い、対話をし、多くを学べるということです。そうした人生を実現できる社会を目指して、これからも取り組んでいきたいと思います」

平川理恵

京都市生まれ。同志社大学卒業後、1991年(株)リクルートに入社。企業派遣により1998年南カリフォルニア大学経営学修士(MBA)取得。1999年留学仲介会社を起業。2010年全国で女性初の公立中学校民間人校長として横浜市立市ヶ尾中学校に着任。2018年より広島県教育委員会教育長に就任。その間、文部科学省中央教育審議会委員、内閣官房教育再生実行会議有識者、経済産業省産業構造審議会委員なども務める。現在は日本の教育を変えるべく企業や学校へのアドバイスや講演を行っている。

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