韓国の性教育から学ぶ、日本の「生命(いのち)の安全教育」を前進させるために
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(Release)2026年9月14日
2026年8月31日から9月1日、プラン・インターナショナルは、SRHR for JAPANキャンペーンの一環として、国際人口問題議員懇談会(JPFP)生命(いのち)の安全教育プロジェクトチーム(PT)メンバーとともに韓国ソウルを訪れ、性教育、ジェンダー政策、デジタル性暴力対策の現場を視察しました。

参加したのは、上川陽子衆議院議員、寺田静参議院議員、尾辻朋実参議院議員、野村美穂衆議院議員、小林さやか参議院議員、西岡義高衆議院議員の6名。民間の性教育専門機関「韓国LALA性文化研究所」、公的な性教育・相談拠点「AHA!ソウル市立青少年性文化センター」を訪問したほか、申琪榮(しん・きよん)・お茶の水女子大学ジェンダー研究所教授による政策ブリーフィングも受けました。
今回の視察で見えてきたのは、「韓国では性教育が進んでいる、日本は遅れている」という単純な対比ではありません。韓国にも、性教育をめぐる政治的な反発や地域・学校間の格差、制度があっても実施が形式化する課題があります。一方で、学校外の専門機関や地域の公的拠点が、教育・相談・支援をつなぎ、子どもや若者が自分の身体、権利、関係性について主体的に学べる場をつくってきており、そこに、日本の「生命(いのち)の安全教育」を次の段階へ進めるための重要なヒントがあります。
なぜ韓国を訪れたのか――近い社会だからこそ見えること
韓国と日本は、性をめぐる社会的なタブーや学校現場での反発など、文化的にも共通する課題を抱えています。その一方で韓国では、デジタル性暴力への対応や、学校外の性教育専門機関、公的な相談・教育拠点、ジェンダー政策を支える研究・研修機関など、複数の仕組みが積み重ねられてきました。だからこそ今回の視察では、「韓国の制度をそのまま日本に取り入れる」のではなく、同じような難しさを抱える社会が、何を制度化し、何に行き詰まり、どこを現場の工夫で補っているのかを学ぶことを重視しました。

SRHR for JAPANが目指す「心と体を守る教育」
SRHRとは、「性と生殖に関する健康と権利(Sexual and Reproductive Health and Rights)」のことです。SRHR for JAPANは、SRHRを「誰もが自分の未来を選ぶための基盤」と捉え、子どもが自分の心と体を理解し、守り、安心して語れる社会の実現を目指しています。
そのためにキャンペーンが重視しているのが、政府が推進する「生命(いのち)の安全教育」です。性暴力の加害者、被害者、また傍観者にならないための学びを土台にしながら、人権の尊重、心の安全、他者との関係性、同意や自己決定の力までを含む「心と体を守る教育」として社会に根づかせていく。その実装を考えるうえで、韓国の経験は多くの示唆を与えてくれました。
「正解を教える」のではなく、自分で考え、選ぶ――LALAの性教育

最初に訪れた「韓国LALA性文化研究所」は、2017年に設立された民間の性教育専門機関です。公教育だけでは性教育が届きにくい人をなくすことを目指し、幼児や青少年だけでなく、障害のある人、言語・文化的背景が異なる人などへ対象を広げてきました。
LALAが大切にしているのは、性教育を単なる知識伝達にしないことです。自分の身体や他者を理解し、よりよい関係を築くために、参加者が自ら考え、判断し、生活の中で行動できることを目指します。
たとえば「同意」というテーマでも、年齢によって学び方は異なります。幼児期には「触ってもいい?」と尋ねること、小学校低学年では「嫌だ」「いいよ」と自分の境界線を言葉にすること、高学年では相手の意思を尊重しながら同意を求める言葉を自分で考えること、青少年期には日常の中にある圧力や強要に気づくことへと発展していきます。視覚障害のある子どものための点字ワークシートや触覚教材、デジタル空間で「してはいけないこと」だけでなく「自分にできる行動」を考えるボードゲームなど、学ぶ人に合わせた教材づくりも印象的でした。知識を覚えることより、「自分ならどうするか」を練習する。それは、自己決定する力を育てる教育でもあります。

学ぶ場所と相談できる場所をつなぐ――AHA!センター

翌日に訪れた「AHA!ソウル市立青少年性文化センター」は、1999年に発足した公的な性教育・相談支援施設です。ソウル市の支援を受けながら、教育とカウンセリングを一体的に提供しています。「AHA」という名称には「気づき」の意味が込められています。子どもや若者にとって「問題がある人が行く場所」ではなく、気軽に訪れ、自分自身について考えられる場所にする。その考え方は、プログラムだけでなく施設そのものの設計やデザインにも表れていました。
教育方法は、講師の説明を一方的に聞く座学方式から、参加・体験型へと転換しています。子どもたち自身がテーマを選び、グループで楽しく学びながら、ミッションを解決する「部屋脱出ゲーム」のような仕掛けもあります。扱うのは身体の知識だけではありません。思春期の不安、恋愛、スキンシップ、ジェンダー、自己肯定感、性暴力、デジタル性暴力など。性別表示のない「みんなのためのトイレ」や、さまざまな形の鏡など、空間そのものにも多様性や自己尊重のメッセージが組み込まれています。

さらに重要なのは、「学んだ後に相談できる」ことです。AIチャットが身近になる時代でも、AHA!センターでは身体性や共感を伴う対面相談の価値を重視しつつ、電話やオンラインでの相談にも対応しています。デジタル性暴力についても、被害者支援だけでなく、未成年の加害者に対する教育的介入の必要性が語られました。
日本では、学校教育、相談支援、カウンセリング、専門機関がそれぞれ別々に存在し、十分につながっていないという課題があります。AHA!センターの実践は、性教育を「授業の時間」だけで完結させず、地域のセーフティーネットとして支えるという視点を示しています。
韓国にもある「性教育が届かない」問題

一方、今回の視察で強く確認されたのは、韓国の制度をそのまま理想化してはいけないということです。
韓国では学校における性教育について年間15時間以上という指針が示されてきましたが、実際の内容は学校長の裁量に左右され、形式的な実施にとどまることもあります。AHA!センターでも、制度が存在するだけでは質の高い教育がすべての子どもに届くとは限らないという課題が語られました。
申琪榮教授のブリーフィングでは、2015年の学校性教育標準案が批判を受け、その後、教育課程から「性平等」「性的少数者」「セクシュアリティ」といった用語が削除されるなど、包括的性教育が後退してきた経緯も示されました。

現在は、国家レベルの包括的な基準が不在で、保護者からの苦情への懸念が教員の自己検閲につながるという課題もあります。韓国には、ジェンダー平等政策を担う中央行政機関に加え、研究、研修、被害者支援などを担う常設の専門機関があります。一方で、ジェンダー政策をめぐる激しいバックラッシュにも直面してきました。制度を作れば、自動的に学びが届くわけではありません。基準(法整備)、担い手、予算、研修、相談体制、社会との対話まで含めて、実施を支える仕組みが必要だということを、この度の視察を通して再認識することができました。

日本の「生命(いのち)の安全教育」を前進させる4つの視点
2日間の韓国視察と意見交換を通じ、日本で取り組むべき方向性が具体的に見えてきました。
第一は、すべての子どもに学ぶ機会を保障することの重要性です。
学校や自治体によって実施状況や内容に大きな差が生まれないよう、「生命(いのち)の安全教育」がどこまで実施されているかを把握し、全国で学びの機会を確保する仕組みが必要です。
第二は、年齢や発達段階に応じて、「同意」と「自己決定」を体験的に学べる教材を整えることです。
性教育を知識の暗記にせず、自分の気持ちを伝える、相手の意思を確かめる、困ったときに助けを求めるといった具体的な行動につなげることが重要です。
第三は、学校だけに担わせないことです。
韓国LALA性文化研究所のような民間の専門機関、AHA!ソウル市立青少年性分化センターのような公的な地域拠点、外部講師、相談機関などをつなぎ、教員や保護者を支える仕組みをつくる必要があります。同時に、外部専門家の選定基準や研修など、教育の質をどう担保するかも欠かせません。
第四は、教育を「やったかどうか」だけでなく、「子どもに届いたか」で評価することです。
韓国での政策ブリーフィングでは、制度や予算の有無だけではなく、成果を測る「国家性平等指数」など、継続的に課題を可視化する仕組みが紹介されました。日本でも、実施率や地域差を把握・可視化し、改善につなげる視点が求められます。
性教育は、自分と他者の尊厳を守るための教育

視察後のまとめ会合では、日本の性教育は民間レベルでさまざまな実践が進む一方、公的な基盤が十分ではないこと、教育・相談・カウンセリングが有機的につながっていないことが改めて共有されました。そして、これからの学びの核として確認されたのが、「同意」「自己決定」「性感染症予防」「望まない妊娠の回避」という視点です。
性教育は、単に性に関する知識を教えるものではありません。
自分の心と体を大切にし、相手の尊厳を尊重し、自分で考えて選び、必要なときに助けを求められる力を育む教育です。
韓国の視察で学んだのは、完成された「正解」ではなく、教育を社会全体で支えるための試行錯誤でした。政治的な反発があっても、現場で工夫を重ね、専門機関を育て、相談と支援をつなぎ、学びを届け続ける。その積み重ねが、子どもや若者の権利を守る基盤になります。
SRHR for JAPANは、「生命(いのち)の安全教育」を出発点に、人権、同意、自己決定、関係性、デジタル時代の安全までを含む「心と体を守る教育」を、すべての子どもに届けることを目指しています。一人ひとりが、自分の身体について知り、自分の気持ちを言葉にし、自分の人生を自分で選べること。そして、他者の選択も同じように尊重できること。
韓国で得た学びを、日本の制度と教育現場にどうつなげていくのか
今回の視察は、「生命(いのち)の安全教育」を、すべての子どもの尊厳と自己決定を支える教育へと前進させるための、次の一歩を具体的に考える重要な機会となりました。


