SRHRは、私たち一人ひとりの「お守り」になる〜シオリーヌさん
INTERVIEW
(Release)2026年6月9日
助産師の経験を生かして分かりやすく、楽しく性について伝えている性教育YouTuber、シオリーヌさん。昨年、このウェブサイトのスペシャルコンテンツで公開した、性的同意に関する対談動画にも出演してくださいました。
日本におけるSRHRを取り巻く課題、そして今日からでも実践できる、家庭での性教育について伺います。

助産師時代に「早くからの性教育が必要」と痛感
妊娠や出産の「あるある」を自らコント風に演じるショート動画、性に関するお悩み相談、避妊具の付け方を実演してみせる動画……。性教育YouTuber、シオリーヌ(大貫詩織)さんが発信するコンテンツは、性に関する知識を分かりやすく、ときに面白く伝えていて、気軽に見たくなるのが魅力です。
2019年から始めたYouTubeでの動画配信は、今ではチャンネル登録者数が18万人に。そのほか、SNSでの情報発信、学校や企業などでの講演活動、産後ケアサービスの事業を行うNPO法人の運営、執筆活動など、さまざまな手段を通じてSRHRの実現に取り組んでいます。
以前は助産師として総合病院に勤務していたシオリーヌさん。産婦人科病棟で日々多くの女性たちと接する中で、性教育の必要性を感じたそうです。
「妊娠や出産を経験した女性でも、性についての正しい知識が不足している場合が多いことを知り驚きました。みんながもっと早くから適切な情報を得られたら。そう思い、助産師3年目から性教育に取り組むようになったんです。
最初は地域の学校などでお話をするなど、細々と活動していたんですが、もっと身近な形で多くの人に情報を届けたいと思うように。ちょうどその頃、YouTuberという言葉が広まってきて、10代の子たちがエンタメ系のYouTubeを毎日見るような状況になっていたんですよね。私もYouTubeで発信すれば、中高生の子たちに必要な知識を気軽に手にしてもらえるのではと思い、2019年から動画配信を始めました」
エンタメの力を借りて、性の知識をより多くの人に届けたい
元々エンタテイメント好きで、自身も過去にお笑い芸人やバンドの経験があるというシオリーヌさん。性教育を行う際にもエンタメの力を最大限に活用したいと話します。

「適切な情報や正しい知識を伝えることは大前提。ただし、それをどんな形で発信するか、そのスキルも問われる時代になっていると感じています。真っ当なことを言っているだけでは、本当に届けたい人たちに届かないこともあると、自分自身が動画を投稿していて思うんです。情報を、受け取り手にとって受け取りやすい形に梱包し直して渡すという努力も必要だなと。
数年前に作った『ユースクリニックへようこそ』という性教育のショートドラマは、これまで何百万回も見てもらっています。私が性的同意というのは……などと一生懸命しゃべるよりも、ドラマが面白くてつい見ているうちに、自然と性的同意という言葉を知ってもらう、そういう方が伝わるのかなと思います。
もちろん、キャッチーさに捉われ過ぎて不適切な発信の仕方をしてはいけないし、そのさじ加減には注意する必要はあります。でも、私はエンタメの力を使って、性教育にまだそれほど関心を持っていない人との接点を増やすことが、自分の役目だと思っています」
足りていないのは「権利」の意識
シオリーヌさんのYouTubeの視聴者は、中高生だけでなく幅広い年代の人々。子育て世代から「子どもに性教育をするうえでのヒントをもらえた」といった感想をもらうこともあるそうです。
視聴者からの悩み相談もさまざま。妊娠・出産、生理について、パートナーとの関係、デートDV、子どものジェンダー意識の育み方、などなど。SRHRが抱える課題の多様さを実感すると同時に、共通するのは「権利」に対する意識の低さだとシオリーヌさんは感じています。

「そもそもSRHRという言葉を教えてもらっていない人が多いです。自分の体も人生も自分のもので、自分のことは自分で決めていいということを理解していない人もまだまだ大勢います。自分のことなのに、社会規範や周りの『こうあるべき』という声に振りまわされてしまったり、逆に自分も他者の人生や選択に対して口を出したくなる。そうしたことから生まれている悩みが多い気がします。
また、学校での性教育の内容が不十分なことも課題だと思います。日本の学校では、国際的な標準指針*に基づく性教育が行われていません。多くの子どもたちは、性に関する正しい知識を十分に教えられないまま、自分で判断を迫られる状況に置かれがちです。大人たちは、子どもたちに適切な知識や情報を伝える努力をもっとしていくべきだと思います」
*「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(International Technical Guidance on Sexuality Education)」は、UNESCO(国連教育科学文化機関)やWHOなどの協力により作成された、性教育に関する国際的な標準指針。 単なる「からだの仕組み」にとどまらず、人権やジェンダー平等を基盤とした「包括的性教育」を提唱している点が大きな特徴。
同意を取る、NOを受け止める。日常の小さな積み重ねが性教育に
子どもたちに適切な性教育をするのは大人の役目。そう分かっていても、いざ子どもに話すとなると戸惑うのも事実。どんなタイミングで、どのように伝えていけばいいのでしょう。

「家庭で性教育をしようと思った時に、皆さんが想像しがちなのは『ちょっとここに座ってくれる? 今日は大事な話があるの』みたいな(笑)、あらたまったシーンなのでは。もちろんそういう時があってもいいと思いますが、もっと日常の中で性教育はできると私は思っているんです。
私が自分の3歳の子どもに対して心がけているのは、子どものプライベートゾーンに勝手に触らないこと。0歳の時から、おむつを替える時は「おむつ替えまーす」「お尻拭きまーす」などと必ず声をかけています。どんなに小さくてもその子の体はその子のものだという意識を大人が持つことが大事だと思って。
子どもも、プライベートゾーンに触れる時には同意を取ることが必要だということを幼い頃から知っていれば、万が一性暴力に遭った際に『黙って触るはずがない』『こんな触れ方はなしないはず』と気づけるはず。こうした日々の心がけも、性教育だと私は思っています。
また、子どもが成長するにつれ、何を着るか、何を飲むかなど、小さなことでも自分のことは自分で決めてもらうことも意識しています。『自分の人生の主体は自分である』というSRHRの根本の部分を、日常の節々で感じてほしいなと思うんです。
もうひとつ、子どものNoを受け止めることも大事だと思っています。たとえば子どもに『手をつなごう』と言った時に子どもから『今は嫌だ』と返ってきても、悲しむ素振りを見せない。親が悲しんでいたら、子どもは罪悪感を持つじゃないですか。そういう経験が将来、恋人や大事な人に対して『嫌だ』と言いたくても言いづらいという気持ちにつながるかもしれません。身近な大切な人にNoと言っても関係が悪くならない、受け止めてもらえる。そういう経験を積み重ねていってほしいと思っています。
子どもから性に関する質問を受けた場合は、嘘をついたりはぐらかしたりせず、知りたいと思った子どもの気持ちを受け止めることが大切。すぐに答えられない場合は『少し調べる時間をくれる?』と言っていったん保留にしたり、自分の口から説明しにくい場合は動画や本を活用して子どもと一緒に学んでもいいのです」
SRHRは私たちのお守りになる概念
性教育と一口に言っても、その内容は多岐にわたるもの。子どもたちに伝えることは数あれど、何より大事なのは自分の権利、つまりSRHRについて知ってもらうことだとシオリーヌさんは考えています。

「性に関する個々の知識やノウハウも大事ですが、一番の土台となるのはやはり権利の意識。『私の体は私のもので、私のことは私が決めていい』という意識がベースにあれば、いざ辛いと感じた時に情報や助けを求めることができると思うんです。同時に、その権利は当然他の人も持っていて、相手が嫌だと言っていることを無理やりするのは暴力になると理解していることが、さまざまな問題の解決につながるのではないでしょうか。
中学生や高校生向けの性教育の講演会では、私はまず最初にSRHRの話をします。最初に一番大事な話をするから、今から5分間だけは絶対寝ないでねって。このSRHRっていう言葉だけは絶対に覚えてねっていうんです。
私の体は私のもので。私の人生は私のもの。私のことは私が決めていい。SRHRは、私たち一人ひとりにとってのお守りになる概念だなと思っています。それを知っている人が一人でも増えるように、SRHR for JAPAN キャンペーンと連帯しながら、私にできる仕事を続けていきたい。そして、SRHRが当たり前に尊重されている世の中を子どもたちの世代に残したいと思っています。

シオリーヌ(大貫詩織)
助産師/性教育YouTuber、NPO法人コハグ代表理事 総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベント等の講師を務める。 YouTubeチャンネルでは、性の知識を気軽に学べる動画を配信中。

