「性の話を、特別なものにしない。」保育園から中学校までの現場で見えてきたリアルと、「生命(いのち)の安全教育」がもたらす変化とは~助産師・有馬祐子さん

INTERVIEW

(Release)2026年4月28日

保育園の子どもから大人まで、20年にわたり性教育に向き合ってきた助産師・有馬祐子さん。教室での子どもたちの反応や、日常の中で「性」をどう伝えるか――現場での実践を通じて見えてきた課題と可能性について、プラン・インターナショナル アドボカシーグループリーダー長島美紀が話を聞きました。

性教育に取り組むようになった背景

― まず、有馬さんのこれまでのご活動について教えてください。

 助産師として出産や育児に関わる中で、「妊娠に気がついてから自分のからだのはたらきについて向き合うのではなく、もっと早い段階から伝えておく、知らせておく必要があるのではないか」と感じたことがきっかけです。妊娠や出産の場面で、「知らなかった」「誰にも聞けなかった」という声を多く聞いてきました。

 その経験から、保育園や小学校、中学校などで子どもたちに直接伝える活動を始めました。現在は、幅広い年代を対象に、学校現場や保護者向けの講座などでお話ししています。

子どもたちの反応――ふざけているように見えても

― 授業を一度見学させていただきましたが、真剣に聞く子と、少しふざけているように見える子の両方がいました。この反応はどのように見ていますか。

生徒の中には、性教育の内容をどう受けとめていいかわからない、という子がいるのだと思います。ふだんは表立ったところで語られない性の話題に「恥ずかしさ」を感じて、笑ったり、茶化したりすることで距離を取ろうとするのでしょう。

中学校では特にその傾向があり、授業後に個別で質問に来る子も多いです。「さっきの話なんですけど…」と小さな声で聞いてくる子もいて、人前では見せられない関心があると感じます。

小学校でも、最初はざわざわしていても、話が進むにつれて静かに聞くようになることがあります。反応の仕方はさまざまですが、関心がないというよりは、どう関わればいいかを探っている段階だと感じます。

 

保育園での実践――「生命(いのち)の安全教育」の浸透

― 保育園ではどのようなお話をされていますか。

保育園では、具体的な性の話というよりも、「自分の体を大切にすること」や「嫌なことは嫌と言っていい」といった内容を中心に話しています。

ある保育園では、看護師の方から「生命(いのち)の安全教育として、園としても子どもたちにこうしたことを伝えていきたい」と言われたことがありました。こうした言葉が現場から出てくるようになってきたこと自体、生命(いのち)の安全教育という考え方が少しずつ浸透してきているのではないかと感じています。

これまでは外部の人に任せることも多かったと思いますが、こうしたテーマを園の中で扱っていこうとする動きが出てきているように思います。ただ、「どこまで伝えるのか」「どのような言葉で伝えるのか」については、現場ごとに悩みながら進めている様子も見られます。

 

学校現場での変化と試行錯誤

― 小学校や中学校ではどのような変化を感じますか。


学校の中でも、「自分たちで教えていこう」という意識が出てきていると感じます。これまでは外部講師に任せることも多かったと思いますが、教員自身がどう扱うかを考えている場面が増えてきていると思います。

一方で、「どこまで扱ってよいのか」「どういう内容なら授業として成立するのか」といった点については、それぞれの現場で試行錯誤している印象があります。

 教員の戸惑い――「これは性教育ですか?」

― 教員の方々の反応はいかがでしょうか。


授業の中で、心のことや人との関係の築き方について話した際に、「これは性教育ですか」と聞かれることがあります。国際セクシュアリティ教育ガイダンスの8つのキーコンセプトの1が、「人間関係」です。安心できる人間関係があって、それを基盤に「心地よいセクシュアリティ」が充実していくと思います。教員の方々との出会いの中では、「このことを確認できていないことがあるな」と感じることがあります。生徒が講演を聞いた後で、トラブルが減って教室が落ち着いた雰囲気になっていくことで、人間関係を丁寧に伝えることの大切さが伝わってきていると思っています。

たとえば、「相手の気持ちをどう考えるか」「自分と違う意見をどう受けとめるのか」といった話は、性教育として意識されにくい場合があります。

人との関係性と関連付けて、どこまでを性教育として扱うのか、現場ではまだ整理しきれていない部分があると感じます。

保護者の悩み――家庭でどう伝えるか

― 保護者の方からはどのような声がありますか。


シングルファーザーの方から「娘にどう話していいかわからない」と相談を受けたことがあります。体の変化について、自分の経験として話せない部分もあり、悩まれていました。

また、「学校でどこまで教えているのか」「家庭では何を話せばいいのか」といった質問も多く受けます。「一度きちんと話さなければいけない」と考えてしまう方もいますが、日常の中で少しずつ触れていくことも一つの方法だと思います。

実際に、保護者の方から「保護者向けに話をしてほしい」と依頼をいただくこともあります。学校や地域の集まりの中で、子どもへの関わり方や、どう声をかければよいのかといったテーマでお話しする(kをとる)ことがあります。

そうした場では、「家庭でどう伝えるか」に関心が集まっていると感じます。特別な機会を設けるだけでなく、日常の中でどう関わるかという視点を共有することが重要だと思っています。どうしても性に関する話題は苦手な方もいらっしゃるので、そういう場合は「私のような、性教育を専門に活動している人に尋ねてみてほしい」と思います。保護者の方ご本人が伝えるのは苦しいと感じるなら、「一緒にお話を聴いてみようよ」と、私たちの存在を活用していただきたいと考えています。

 

日常の中で扱うということ

― 授業の中で意識されていることはありますか。


特別なテーマとして切り離すのではなく、日常の中で考えられるものとして扱うことです。

たとえば、人との関係の中で「どう感じるか」「どう伝えるか」といったことを考えることも含まれます。「こういうとき、自分はどう思うか」「相手はどう感じるか」といった問いかけをすることで、子どもたち自身が考えるきっかけをつくるようにしています。

実際に、体の話そのものよりも、そうしたやり取りの中での話の方が、子どもたちが反応しやすいと感じる場面もあります。最初は少し距離を取っていた子も、自分の経験に引き寄せて考えられるようになると、少しずつ聞き方が変わってきます。

性に関することを、特別な時間にだけ扱うのではなく、日常の延長線上で伝えていくことで、無理なく受け止めてもらえるのではないかと感じています。

有馬さんからのメッセージ

― 最後に、この記事を読む方へメッセージをお願いします。


性に関することは、必要だと思っていても、実際にはどう扱っていいのか迷う場面が多いと思います。私自身も、現場で関わる中で、「これでよかったのか」と考えながらお話ししていることが多いです。

保護者の方からも「どう話せばいいのか」と相談を受けますし、教員の方も「どこまで扱えばいいのか」と悩んでいる様子があります。子どもたちも、関心はあってもどう受け止めていいのかわからない中で、いろいろな反応を見せているのだと思います。

そうした中で、何か特別なことをしなければいけないというよりも、日常の中で少しずつ考えていくことが大切なのではないかと感じています。すぐに正解があるものではないので、それぞれの立場でできる形で関わっていくことが、一つのやり方なのではないかと思います。

 

インタビューからは、「生命(いのち)の安全教育」が現場に広がる中で、保育園・学校・家庭それぞれが試行錯誤を重ねている現状が見えてきました。有馬さんの言葉が示すように、特別な場だけでなく、日常の中で対話を重ねていくことが、これからの教育の土台となっていくのかもしれません。 

有馬祐子

助産師。保健師。思春期保健相談士。 聖路加看護大学卒業。日本思春期学会理事。千葉明徳短期大学・東京未来大学非常勤講師。 こども発達支援研究会機関研究員。 様々な年齢の子どもを対象に、性教育の講演を実施している。保護者、保育者対象の健康相談や講演も積極的に対応している。 あたたかな言葉での「対話」を大切にして、聴く人が安心できる環境での講演を心がけている。

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