【活動報告】若者とともに広げる「生命(いのち)の安全教育」〜 国会議員との議論を通じて見えた課題と可能性
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(Release)2026年4月15日
2026年4月14日、参議院議員会館にて、国際人口問題議員懇談会(JPFP)「生命(いのち)の安全教育」プロジェクトチーム(PT)会合が開催されました。
SRHR for JAPANでは、このプロジェクトチームの議論に継続的に参加しながら、生命(いのち)の安全教育について社会全体で考える機会をつくるとともに、課題解決に向けたロビイングを行っています。今回の会合も、その重要な一歩となるものでした。
会合の流れ:政策と実践をつなぐ場として
まずJPFP会長による開会挨拶の後、プロジェクトチーム座長より、現在検討が進められている「生命(いのち)の安全教育デジタル教材アイデアコンテスト」について説明がありました。

続いて、教育分野で若者の創造的な学びを支援してきた民間企業からのコメント、そして、こども家庭庁参与の辻由起子さんによる講演が行われました。
辻さんは、ご自身の経験や現場での支援活動をもとに、今の日本で起きている課題を具体的に語りました。DVや児童虐待、若年妊娠、若者の貧困や孤立、さらにはSNSや生成AIを通じた新たな性被害の広がりなど、一見すると別々に見えるこれらの問題が、実は密接につながっていることが示されました。
特に強調されたのは、こうした問題が「個人の問題」として片付けられがちである一方で、実際には知識や支援の不足、制度の分断、社会の側の脆さといった構造的な要因によって生まれているという点です。

たとえば、予期しない妊娠や虐待の背景には、性や人間関係について学ぶ機会が十分に与えられていない現実があります。DVやハラスメントの問題も、そもそも何が暴力にあたるのか、どこまでが許されない行為なのかを知らないまま社会に出てしまうことで、被害と加害の連鎖が繰り返されてしまう側面があります。
また、困難を抱える若者の多くが「頼れる大人がいない」「相談できる場所がない」と感じている現状も共有されました。助けを求めることができないまま追い込まれ、結果としてより深刻な状況に陥ってしまうケースも少なくありません。
こうした現実を前に、辻さんは「問題が起きてから対応するのではなく、そもそも問題が起きにくい社会をつくる必要がある」と指摘します。そのための最も重要な手段が、早い段階からの教育であるという考えです。
単に知識を教えるのではなく、
- 自分の心と体を大切にすること
- 他者との関係の中で尊重し合うこと
- 困ったときに助けを求めてよいこと
といった力を育てることが、結果としてDVや虐待、性被害の予防につながっていきます。
さらに辻さんは、教育の役割は子ども個人の変化にとどまらないとも指摘しました。子どもたちが正しい知識と価値観を身につけることで、将来の社会全体のあり方そのものを変えていく可能性があるという点です。
こうした観点から、生命(いのち)の安全教育は単なる「一つの教育プログラム」ではなく、社会課題の連鎖を断ち切るための基盤となる取り組みであることが、強いメッセージとして示されました。
こうした議論を受けて、NGOの立場からの提案として、プラン・インターナショナル アドボカシーグループリーダー長島美紀が登壇し、要望書の内容について発表を行いました。
若者が「アクセスしたくなる」教育へ~:コンテスト企画のねらい
今回の会合で大きな柱の一つとなったのが、「若者主体の学習体験デザインコンテスト」です。
生命(いのち)の安全教育は、すでに公的な教材として整備が進められています。しかし現場では、「どこにあるのかわからない」「自分には関係のないものに感じてしまう」といった理由から、十分に活用されていない現状があります。
このコンテストは、そうした課題に対して、若者自身の視点から解決を試みるものです。
単に新しい教材を作るのではなく、「正しい情報にたどり着くまでの体験」をどう設計するかに焦点を当てています。
たとえば、
- 思わず見てみたくなる入口
- 自分に関係のあることとして感じられる導線
- 一人ひとりの関心や理解度に応じた体験設計
といった観点から、Webサイトやアプリ、動画、ゲームといった自由な形式でアイデアを募集します。
若者が「届けられる側」ではなく、「設計する側」として関わることで、生命(いのち)の安全教育そのものを社会に広げていく新しいアプローチを目指しています。
SRHR for JAPANも、この取り組みを単なるコンテストではなく、若者の主体的な参加を通じて社会を変えていく試みとして位置づけています。

すべての子どもに届く仕組みを
こうした議論を受けて、長島はNGOの立場から、現状の課題と今後の方向性について提案を行いました。
長島がまず強調したのは、辻さんの講演でも示されたように、生命(いのち)の安全教育は単なる知識の提供ではなく、DVや虐待、性被害といった社会課題の連鎖を断ち切るための基盤であるという点です。その一方で現実には、こうした重要な教育が、すべての子どもに十分に届いているとは言えません。文部科学省の調査からも、教育の実施率は決して高いとは言えず、さらに地域によって大きな差があることが明らかになっています。
つまり現在は、「必要な教育である」という認識が広がりつつある一方で、どの子どもがどの程度学べるかが、地域や学校に委ねられている状況にあります。このままでは、一部の子どもだけが知識と選択肢を持ち、そうでない子どもとの間に見えない格差が生まれてしまいます。
長島は、この状況を変えるためには、新たな制度を一からつくるのではなく、すでにある仕組みを「確実に機能させる」視点が必要であると指摘しました。その上で、特に重要なポイントとして次の3点を提示しました。
第一に、すべての学校で当たり前に実施される仕組みを整えることです。生命(いのち)の安全教育は、「やるかどうか」を各現場の判断に委ねるのではなく、すべての子どもが最低限の内容を学べる状態を前提とする必要があります。
第二に、現場で実施可能な設計にすることです。新たに授業時間を確保するのではなく、既存の教科や活動の中で無理なく組み込める形に整理し、「時間がない」「教えにくい」といった現場の課題を解消していくことが求められます。
第三に、専門性を支える体制を整えることです。性や人間関係に関する教育は、教員の負担や不安も大きい分野です。外部専門家の活用や研修の体系化を通じて、どの地域でも一定の質を担保できる環境づくりが不可欠です。
これらの提案に共通しているのは、「理念としての重要性」を確認する段階から、「実際に現場でどう実現するか」へと議論を進めていく必要性です。
長島は最後に、生命(いのち)の安全教育は一部の子どもだけに届けるものではなく、社会全体の基盤としてすべての子どもに保障されるべきものであることを改めて強調しました。
議論から見えてきたもの
質疑・意見交換では、教育現場の実態を踏まえた率直な議論が交わされました。

特に印象的だったのは、「教員自身が十分な性教育を受けていない」という指摘です。専門性の不足や、教え方によっては子どもを傷つけてしまうリスクも含め、生命の安全教育は単に内容を広げればよいものではなく、丁寧な設計と支援が不可欠であることが共有されました。
また、知識として学ぶだけでなく、社会の中で起きている課題と結びつけて理解し、「自分ごと」として捉えられる教育の重要性も強調されました。
SRHR for JAPANとしてのこれから
今回の会合を通じて改めて感じたのは、生命(いのち)の安全教育に対する関心と必要性は確実に広がっている一方で、それを現場で実現するための仕組みがまだ十分ではないということです。
だからこそ、SRHR for JAPANでは、政策、教育現場、そして社会をつなぐ役割を果たしていきたいと考えています。
若者が主体的に関わるコンテストの実施、現場の課題を踏まえた政策提言、そして社会への発信。
これらを通じて、誰もが心と体について学び、自分の人生を選択できる社会の実現に向けた取り組みを、今後も進めていきます。


