「最近の若者は恋愛をしない?」50年の調査から見えた若者の性の“現在地”~立正大学教授 石川由香里さん
INTERVIEW
(Release)2026年3月31日
「最近の若者は恋愛をしないらしい」「SNSの影響で性に関するトラブルが増えているのでは」
こうした話題を耳にして、若い世代の恋愛や性について不安を感じている大人も多いのではないでしょうか。
一方で、実際の若者がどのように恋愛や性を捉えているのかを、長い時間をかけて追ったデータは多くありません。
日本性教育協会が1974年からほぼ6年ごとに約50年続けている「青少年の性行動全国調査」は、中学生・高校生・大学生を対象に、恋愛観や性意識、行動の変化を調べてきた日本でも数少ない長期調査です。
SRHR for JAPANでは、この調査に長年関わってきた立正大学文学部社会学科教授の石川由香里さんに、若者の性の変化と現在地について話を聞きました。聞き手は、プラン・インターナショナル アドボカシーグループリーダー長島美紀が務めました。

「若者はこうだ」という思い込み
石川さんがこの調査に関わるようになったのは、大学院時代のことでした。もともとの研究テーマは「子どもと社会」で、社会や大人が思い描く子どもの姿と、実際の子どもたちの姿には大きなギャップがあるのではないかという問題意識がありました。
若者の性についても同じことが言えるといいます。
「世間では“今の若者はこうだ”というイメージが語られることが多いですが、実際の若者がどう考えているかは、必ずしもよく理解されていません」
長く続く調査の価値は、こうした思い込みではなく、データによって変化を把握することができる点にあります。
恋愛が「当たり前」だった時代

石川さんは、若者の恋愛観には時代によって、大きな変化が見られると語ります。
特に印象的なのは1980年代です。
当時は恋愛が若者文化の中心にあり、恋人がいることが「普通」とされていました。恋愛をしていない人はどこか「イケていない」と見られるような空気もありました。
しかし2000年代以降、状況は変わっていきます。「恋愛は必ずしなければならないものではなく、個人が選ぶものになってきました」
恋人が欲しいと考える若者は今も多いものの、「恋愛をすることが当然」という社会的な圧力は弱くなっています。
さらに近年は、性の多様性についての理解も広がりました。恋愛や性のあり方は一つではないという意識が、若い世代ほど強くなっています。
それでも残るジェンダー意識
ただし、すべてが変わったわけではありません。
恋愛におけるジェンダー意識は、意外と残っている部分もあると言います。
たとえば
- 告白は男性がするもの
- デートでは男性がリードする
といった考え方です。
「出会う方法はマッチングアプリなどに変わってきていますが、恋愛の中での役割期待はそれほど変わっていない部分もあります」男女平等の意識が広がっている一方で、恋愛の場面では従来の価値観が残っているケースも見られるそうです。
若者にとって大切なものとは?

第9回調査では、「日常生活の中で大切にしていること」という新しい質問が加えられました。
その結果、研究者たちにとって意外だったのが「音楽」という回答の多さでした。
恋愛よりも音楽を大切にしていると答える若者が多かったのです。
背景には、ライブやコンサートなどが頻繁に開催されていることがあります。
アルバイトをして遠征費を貯め、全国のライブに参加する若者も珍しくありません。
「音楽の中には、“何かに夢中になる時間”という意味も含まれているのではないかと思います」
こうした結果は、恋愛が若者の生活の中心とは限らなくなっていることを示しているのかもしれません。
SNSは本当に危険なのか
スマートフォンやSNSの普及について、不安を感じる大人は少なくありません。しかし、石川さんはSNSが若者に大きな悪影響を与えているという見方には慎重です。
調査では、インターネットから性に関する情報を得ている若者の方が、性知識の理解度が高いという結果も出ています。
「ネットの情報は危険だと言われることもありますが、若者はそれなりに使いこなしている面もあります」
またSNSとひと口に言っても、実際には知り合い同士のネットワークで使われていることが多く、無防備に見知らぬ人とつながっているわけではないという側面もあります。
日本の性教育の課題

一方で、日本の性教育には大きな課題があります。中学校や高校で性教育に使える時間は、年間2〜3時間程度しかありません。
その限られた時間で多くの内容を扱うため、十分に理解を深めることが難しい現状があります。
さらに、保護者の多くが学校でどのような性教育が行われているのかを知らないという問題もあります。
「家庭と学校の連携が大切だと言われていますが、実際には保護者が学校の性教育の内容を知らないケースも多いのです」
若者の性の「現在地」
では、現在の若者の性の「現在地」はどこにあるのでしょうか。
石川さんはこう話します。
「若者の人生の中で、恋愛や性が占める割合は以前より小さくなっているのかもしれません」
昔は恋愛や性が若者文化の中心にありました。しかし今は、趣味や活動、友人関係など、さまざまな選択肢の一つになっています。
恋愛に強い関心を持つ人もいれば、そうでない人もいる。
そのどちらも受け入れられる社会になりつつあります。
つまり、若者の性は「増えた」「減った」という単純な変化ではなく、より多様化していると言えるのです。
若者を理解するために
若者の性について語られるとき、不安や心配が先に立つことも少なくありません。
しかし長く続く調査から見えてくるのは、若者たちがそれぞれの価値観の中で恋愛や人間関係を築いている姿です。
若者を理解するために必要なのは、「最近の若者はこうだ」という思い込みではなく、実際の姿を知ることなのかもしれません。
半世紀にわたる調査が示しているのは、社会の変化とともに、若者の生き方もまた変化しているということです。
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石川由香里
1964年生まれ。1995年東京都立大学大学院社会科学研究科後期課程修了。博士(社会学)。現在、立正大学文学部教授。専門は家族社会学、ジェンダー論。主著に『格差社会を生きる家族』(共著、有信堂高文社、2011年)、『子育て世代のソーシャル・キャピタル』(共著、有信堂高文社、2018年)、『若者の性の現在地―青少年の性行動全国調査と複合的アプローチから考える』(共編著、勁草書房、2022年)などがある。

