「すべてのサバイバーのために」を問い直す ~ 岡田実穂さん
INTERVIEW
(Release)2026年3月19日
このほど、一般社団法人Broken Rainbow-japanとSRHR for JAPANキャンペーンの連携が決まったことを受け、代表理事の岡田実穂さんに、団体設立の背景、これまでの活動、そして今後の展望について語っていただきました。

Broken Rainbow-japan設立の背景について教えてください
Broken Rainbow-japanは2017年に設立しました。きっかけは、2014年頃から始まった刑法改正の議論です。性犯罪に関する法改正に向けて、法務省がLGBTQ+コミュニティにおける性暴力の実態を把握したいということでヒアリングの依頼がありました。
当時、私たちはまた別の団体(レイプクライシス・ネットワーク)で、性別を問わない性暴力被害の当事者団体を運営していたのですが、日本でLGBTQ+と性暴力の両方に取り組んでいる団体はほとんどありませんでした。それならば専門的なチームを立ち上げ、政策提言を行う必要があると考えたのです。最初はレイプクライシス・ネットワークのプロジェクトとしてスタートし、その後2017年に正式に団体化しました。
団体名の「Broken Rainbow」は、長くイギリスでLGBTQのDVについて活動してこられた団体の名前からもらいました。また、Rainbow(虹)は常に壊れながらまた出るという事実もあることから、「『しんどい』と言っていいんだよ」ということを当事者たちに伝えたいという思いを込めてつけました。
岡田さんが性暴力被害者支援に関わり始めたのは、いつ頃からですか
2003年からです。大阪の当事者団体でボランティアとして活動を始めました。その年に大きな転機がありました。アメリカ・カリフォルニア州のベイエリアにある、世界で最も歴史のあるワンストップセンターの一つである、ベイエリア・ウーマン・アゲインスト・レイプ(BAWAR)のスタッフが来日し、研修を行いました。その研修では、最初に「LGBTQコミュニティと性暴力」を取り上げたのですが、当時のBAWARの代表は「もしあなたの団体が“すべてのサバイバーのために”と掲げているのに、地域のLGBTQ+コミュニティについてすら知らないのなら、今日帰り次第、その言葉を“一部のサバイバーのために”と書き直すべき」と発言したのです。
その言葉は衝撃でした。私は当事者でもありましたが、当時は自分のセクシュアリティをカミングアウトして活動することに恐怖心を抱いていました。しかし、その言葉によって、「全てのサバイバーのために」という理念を「性のありように関わらず」実践していいのだという、強い自信に繋がりました。
具体的にどのような活動から始められたのでしょうか
私が主体として関わってきた初期のものとしては、2008年に「レイプクライシスネットワーク」を立ち上げて取り組んだ「紹介状制度」の開発があります。
支援の現場では、よく「あなたは一人じゃない」と言います。しかし実際には、サバイバー(被害を生き抜いている、という意味を込め、性暴力被害にあった当事者をサバイバーと呼びます)たちは孤立していることが本当に多い。声も上げられない。その現実に対して、言葉だけでは足りないと感じていました。
そこで、ホームページ上で10項目のアンケートに答えると、警察・医療機関・弁護士・支援団体に提出できる紹介状が即時発行される仕組みをつくりました。性別を問わず利用できる設計にこだわりました。当時、そのようなツールは国内にはほとんどありませんでした。
これまでに約3500件がダウンロードされています。すべてが実際に使われたわけではありませんが、それだけのニーズがあるということです。
「声を上げる前の段階で、部屋の中に一人でいてもできることをつくる」。それが出発点でした。
青森で運営されたコミュニティカフェについて教えてください

東京や大阪で活動を続ける中で、青森に居場所をつくることを決意しました。パートナーの亡くなった母が営んでいた店舗を引き継ぎ、自己資金で改装しました。地方の小さな場所でも、相談ができたり、昼も夜も集える、そんな場所を作りたかったのです。
カフェを始めた2014年当時には、「青森では無理だ」と何度も言われました。その頃にパレードも始めたので、特にでしょうか。しかし、死刑になる国でもプライドパレードは行われているのであって、青森でできないのでは、随分希望がないな、と思っていました。
カフェには、性やジェンダーに関する本を多数置きました。地方はやっぱり、実家暮らしが多いですからね。だからこそ、誰でも自由に読める場所が必要だと考えました。小学生から高齢者まで、さまざまな人が訪れました。
もちろん嫌がらせもありました。店舗前に大量の廃棄物を置かれたり、暴言を浴びせられたりもしました。それでも、当事者たち、そして各地の支援者とともに乗り越えながら活動をすすめていました。決して華やかなものではありませんでしたが、地方で声を上げることの意味を実感した10数年でした。
LGBTQ+コミュニティにおける性暴力の実態について、どのように捉えていらっしゃいますか
国内外の調査を見ると、LGBTQ+の人々が性暴力被害を経験する割合は非常に高いことが分かっています。特にトランスジェンダー、バイセクシュアル、インターセックスなどは、いわゆる女性の被害率統計からみてもはるかに高い被害率が示されています。
しかし、私が問題だと感じているのは「数字の高さ」だけではありません。もっと深刻なのは、被害が可視化されにくい構造です。
例えば、同性パートナーから暴力を受けた場合、「友人同士のトラブル」として軽視されがちです。トランスジェンダーが被害を訴えた時、まず性別確認ばかり重要視され支援にたどり着くまでに消耗してしまうこともあります。「そんなものは被害と言わない(被害とは男性から女性に行われるものだ)」と被害自体を認められない(承認されない)ということも多く起こります。
また、「自分がLGBTQ+であることが家族や職場に知られてしまうのではないか」という恐怖から、警察や医療機関に行けない方も少なくありません。被害と同時にアウティングのリスクを抱えているのです。つまり、性暴力被害に加えて、スティグマや差別という二重三重の負担が重なっています。
2021年には、全国のワンストップセンターにLGBTQ+に関する研修の実施状況を調査しました。半数程度は何らかの研修を実施していましたが、その多くは「LGBTとは何か」「レズビアンとは」といった基礎講座にとどまっていました。
もちろん基礎知識は重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。
例えば、相談者が「実は私はレズビアンで」と打ち明けたときに、「人を愛するって素晴らしいですね」と返してしまう支援者がいます。悪意はありません。しかし、相談者はこれから性暴力被害の話をしようとしているのです。そのタイミングでポジティブな価値観の共有をされると、かえって本題に入りづらくなることがあります。
必要なのは、「多様性を尊重します」という姿勢だけではなく、LGBTQ+サバイバーが直面する具体的なリスクや心理的負担を理解したうえでの対応力です。
実態を知らなければ適切な支援はできません。BAWARの講座で言われた通りですよね、最低限、サバイバーが生きているコミュニティについて知っている必要があるのです。それは、女性相談でも同じです。だからこそ、単発の啓発ではなく、体系的な人材育成が急務だと考えています。
今後、どのような展開を考えていますか

現在、90分で実施できる基礎研修用冊子(52ページ)を作成しています。これは「基礎とは何か」を明確にし、全国どこでも同じ最低限の研修が実施できるようにするための共通土台です。
これまで日本では、「基礎研修」という言葉は広く使われてきましたが、その中身は団体ごとに大きく異なっていました。数時間の講義形式のものもあれば、用語解説中心のものもあり、支援現場に立つ人たちが共有している前提が揃っていない状況がありました。その結果、地域によって支援の質に差が生まれてしまう。
この冊子は、そのばらつきを埋めるための“最低限の共通言語”をつくる試みです。誰が実施しても、一定の内容が担保される。そのためのスタートラインとして作成をしたいと思ったのです。
私たちが理想としているのは、この問題に関して外部講師に依存するのではなく、各地域で、身近な支援機関が当たり前にこのテーマについて自ら研修を実施できる体制を持つことです。
特に現在、全国すべての都道府県にワンストップセンターは設置されています。けれども、研修の実施体制や専門性には大きな差があります。多くのセンターが予算や人員の制約の中で運営されており、24時間対応ができているのは大都市圏に限られています。
また、これはLGBTIQA+でも変わらないし、特に多いのですが、性暴力を最初に受ける年齢というのは、若年者が最も多いんです。子どもへの教育は急務です。性暴力の問題、特に子どもに対する性暴力に関しては、教員や一部の医師による子どもへの教育が一般的ですが、子どもの被害に対する加害者は、その多くが比較的近い立場の人であることが言われてもいます。身近な人がサポートしてくれる体制を作る重要性と共に、第三者である大人の介入が確実に必要です。そこで、ワンストップセンターの皆さんには、「研修を受ける側」であり続けるのではなく、「研修を担う側」になってもらいたい。冊子もまた改定していきたいですが、各地でそうしたことのため活用いただきたいです。
また、今後予定している調査では、「研修を受けていますか」という問いにとどまらず、「研修を実施できますか」「地域でどのような内容なら担当できますか」という視点を加え、各地域の実施能力を可視化していきたいと考えています。
支援体制を強化するには、プログラムを新しく作ること以上に、「誰がそれを担えるのか」を明らかにすることが重要です。今、その延長線上で参考にしているのが、米国カリフォルニア州のアドボケイト(ワンストップセンターの相談員のような立場)に関する法律や地域コミュニティにおける研修制度です。同州では、性暴力支援に携わるために一定時間の体系的な研修が法的に定められており、最低40時間の性暴力に関わる実践的なロールプレイや筆記試験を含む認定制度が整備されています。
重要なのは、性暴力サバイバーへの支援を各分野ごとに専門職として位置づけ、そのための標準化された研修体系を社会が保証し、地域における差異を出来る限り減らし(もちろん、州法による差異はあるのですが)、「支援が生活の身近にある」ということです。
日本でも、支援者の善意や努力に依存するのではなく、制度として専門性を支える枠組みが必要だと感じています。専門性といっても有資格者であることが重要なのではなく、性暴力について、具体的な学びを明確にしていることが必要なのです(ちなみに、カリフォルニア州のワンストップセンターで働くためには心理職者であれ、上記の研修を修了、合格することが求められます)。基礎冊子は、その第一歩で、そこから段階的に、より実践的で体系的な研修へと発展させ、最終的には「どの地域でも同じ水準の支援が受けられる」状態を目指したいと考えています。
SRHR for JAPANとの連携に何を期待しますか

SRHRの基礎は、性に関しての権利を守るということですよね。性暴力は性=セクシュアリティに対する暴力であり、まさに性の権利侵害、SRHRの課題そのものです。
Broken Rainbow-japanは、LGBTIQA+サバイバーの視点から、日本のSRHRの議論を一歩でも前に進めていきたいと考えています。誰か一部の人の権利をではなく、全体を一歩でも前に、です。そして、支援現場と政策提言をつなぐ役割を担えればと思っています。
「すべてのサバイバーのために」という言葉を、本当に実現する社会へ。その一歩として、SRHR for JAPANと共に歩めることを心から嬉しく思っています。
岡田実穂
一般社団法人Broken Rainbow-japan 代表理事。2003 年から性暴力サバイバー当事者たちを中心とした社会活動に関わりだし、2009 年よりレイプクライシス・ネットワークを主宰。カリフォルニア州認定クライシス・カウンセラートレーニング修了。 LGBTIQA+ の性暴力サバイバーに関してを専門とし、2017年及び2023年の刑法改正に際し法務省のヒアリングを受ける他、警察庁での研修講師、また支援団体や大学等での研修・講演なども行う。

