性教育を通じて、誰もが自分の思うように生きられる世界に〜高橋幸子さん

INTERVIEW

(Release)2026年1月26日

20年近くにわたり性教育に取り組んできた「サッコ先生」こと高橋幸子さん。なぜ性教育が重要なのか、どんな施策が必要なのか、現場で感じていることを聞きました。

性教育をしたくて産婦人科医になった

260回。産婦人科医、高橋幸子さんが2025年の1年間に行った講演の数です。「サッコ先生」の愛称で親しまれている高橋さんは、大学病院の思春期外来や一般の婦人科クリニックに勤務しながら、小中学校や高校の生徒、大学の学生、保護者、専門家向けに性教育の講演を行っています。「趣味も特技も、仕事も性教育」と語るほど精力的に活動する高橋さん。その原点は、大学時代にありました。

「医大の6年生の時、ボランティアで女子少年院を訪れた友人から『入所者の多くが性感染症にかかった経験がある』という話を聞いたんです。その前年、産婦人科の実習中に不妊症の患者さんに出会う機会がありました。不妊症の原因は男性と女性で半々ですし、性感染症だけが原因ではないのですが、性感染症の影響で卵管が詰まってしまうタイプの不妊症も確かにあります。そのことと、女子少年院での性感染症の話が頭の中でつながったんです。避妊をせずに性行為をしている子たちは、そのことが将来不妊症につながる可能性があることを知っているのだろうか、と。知識を持って自分で人生を選択していけるのと、知らないまま困難に直面してしまうのとはずいぶん違うことだと思ったんです。

そうした出来事があって、性教育に携わりたいと思うようになりました。医師として性教育に携わるには小児科、精神科、泌尿器科など、いろいろな選択肢があると思ったのですが、妊娠などで困っている女の子たちを直接サポートできるのは産婦人科医だと思い、この道を選びました」

今の日本の義務教育では教わらない、性行為や避妊、性感染症、不妊などの問題。高橋さんも、自身の思春期を振り返ってこう言います。

「学校で何を教わったかなと思い返してみると、小学校5年生の時に女子だけ体育館に集められて、 生理のナプキンの当て方などを教えてもらったことは記憶に残っています。

一方、私の場合は家庭で教えてもらったこともあります。確か小学3年生の頃、母と一緒にお風呂に入っていた時に赤ちゃんがどうやってできるかを教えてもらいました。また、中学生から中高一貫校の寮に入ることになったんですが、その少し前に母親が性教育の本を古本屋で10冊くらい買ってきたんです。『それを読んでから寮に入りなさい』と渡されたことを覚えています」

子どもたちは、性について正確な情報を知りたがっている

現在の日本の学校教育では、性についての知識が十分に教えられていないため、子どもたちは自分の身を守ることができない。そう考える高橋さんは、外部講師として小中学校や高校での性教育講演を行っています。その際の土台にしているのは、国連教育科学文化機関(UNESCO)が作成した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」です。世界の性教育の指標とされる国際セクシュアリティ教育ガイダンスには8つのキーコンセプトがあり、4つの年齢グループ(5~8歳、9~12歳、12~15歳、15~18歳以上)ごとに、繰り返し学習します。

「私が性教育を始めた当初は、『避妊や性感染症など、生殖にまつわることが性教育だ』と思い込んでいました。でも学んでいくうちに、性の多様性、ジェンダーのことなど、全て含めてのものだと分かってきたんです」

2007年から始めた性教育の講演は、年を追うごとに回数が増加しています。講演を聞いた中学生からは「自分はインターネットなどで調べて何でも知っていると思っていたが、いろいろ間違っていた。今日ちゃんとした話を聞けてよかった」「こういうことに全く興味がなく、自分から調べようと思ったことはなかった。これを知らないまま大人になったかと思うと恐ろしい。話を聞けてよかった」といった感想が届くそうです。

「高校生からは『こんなにオブラートに包まずに正面から教えてくれる性教育は今までなかったので、聞けてよかった』という感想も。子どもたちの間でも、きちんとした知識を隠さずに教えてというニーズは確実にあると実感しています」

家庭では「いつでも」「何でも」「何度でも」教えていい

一方、家庭での性教育にも家庭だからこそできる役割があると高橋さんは言います。

「学校では、年齢ごとに段階を踏んで教える枠組みがありますが、家庭ではその枠組みによる縛りはありません。ですから、子どもが知りたいと思ったその時に教えてあげていいんです。たとえば、子どもが性にまつわる問題行動を始めた時は、そのことについて知りたがっているというサイン。教えてあげるチャンスだと捉えて、ぜひ正しい情報を伝えてあげてほしいです。

また、子どもは一度で全てを理解できるわけではありません。いつでも、何でも、何度でも教えられるのは家庭ならではの強みです。子どもが今何を知りたがっているのか、何を知らなくてはいけないのか、保護者が察知してぜひ伝えていってほしいです。

ただし、我が子だけが正しいことを知っていても、他の子どもたちもみんなが同じことを知っていなければ、性被害などから子どもを守ることはできないですよね。だからこそ、性教育は学校、家庭、地域、医療機関が連携して進めていかなければならないものなんです

気づかずに性的虐待を受ける子どもも

週に一度、思春期外来で診察を行う高橋さん。生理痛などに悩む思春期の子たちのほか、若年妊娠、性的虐待にあった子どもたちが児童相談所に保護された状態で来院することも多いといいます。

「家庭内での性的虐待にあった子どもたちが来院することもあります。実は家庭内での性被害は、とても気づかれにくいものなんです。小さな子の場合、それが虐待だと分からず、楽しいことをしていると思って被害を受けているケースもあります。嫌なことをされたら嫌だと言いなさい、では通用しないんです。大事なのは幼い頃からプライベートゾーンについてしっかり教えること。あなたの体はあなたのもので、誰が、どこに、どんなふうに触れていいかは自分だけが決めていい、プライベートゾーンは自分だけの大切なところで家族だとしても触れないということを理解してもらう必要があります。

また、最近よく聞くのが中学校や高校での盗撮の被害。実は盗撮をしているのは同じ学校の生徒だというケースもかなりあるようです。盗撮した動画を売ってお金に変えているというんですね。被害にあった子は、同じ学校の生徒がそんなことをしていると知ったら本当にショックだと思います。

こうしたことを防ぐためにも、一人ひとりに自分の体は自分だけのものであること、また他人の体も自分と同じように大切に扱わなければならないことを、幼いうちから刷り込んでいく必要があると強く感じています。同時に、一人ひとりが “自分の体は自分だけのものなんだ”と実感できるように、誰もが“自分は大事にされている”という感覚を持てる社会になってほしいです。それは、学校教育だけでは実現できないことなので、家庭も含めて、社会全体でそうした感覚を育んでいけるといいなと思います」

日本に広げていきたいユースクリニック

高橋さんは仲間と共に埼玉県内の4つの市で月に1回ずつ、そのほか大学の学園祭などに招かれてユースクリニックを開いています。ユースクリニックとは、若者たちが予約なしで訪れ、無料で性に関する知識を学んだり、専門家に相談したりできる場所です。最新の生理グッズを展示して紹介したり、コンドームやタンポンの使い方を練習できる道具を置いたり。生理痛などの悩み相談に応じることもあるといいます。

「いずれはこうしたユースクリニックが全国各地に常設されて、“あそこに行けばいつでも学べるし、相談できる”という場所が増えていけばいいなと思っています。それにプラスして、出張型のユースクリニックもあるといいなと」

2025年の夏にSRHR for JAPANの主催する韓国・ソウル市のスタディツアーに参加した高橋さん。学ぶものがたくさんあったと話します。

「韓国は、日本に比べて性教育の環境がかなり整っていると感じました。全国に性について学べる施設が50カ所以上あると聞きましたし、コロナ禍前までは、移動式の性教育バスが10台あったとも。学校教育においても、年間17時間は性教育に当てられていて、そのうちの10時間は子どもたちが性教育専門の施設に連れてこられて、そこで学ぶそうです。学校の教師が十分に教えられない場合でもここに来ればしっかりと学べる、そんな場所が日本にもあればいいなとあらためて思いました」

 

誰でも自分の思うように生きていい

高橋さんは数年前、厚生労働省が発行する「まるっと! まなブック」の作成に携わりました。これはユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスと日本の「学習指導要領」を比較・参照し、日本の教育現場などで活用しやすい教材にしたもので、インターネットからダウンロードして活用することができます。子どもたちが正しい性知識を身につけて自分や相手の心と体を守れるよう、これからも高橋さんは多くの人と連携しながらさまざまな形で性教育の普及に取り組んでいきます。

高橋さんが監修した本(左)と、著作の本(右)

一人ひとりに自分自身の権利があって、誰でも自分の思うように生きていい。それが私の考えるSRHRです。性教育を進めることは、まさにSRHRを推進していくこと。そのためには、性教育に携わる側も十分な知識、そしてSRHRへの理解をしっかりと持った上で行う必要があります。今回のSRHR for JAPANのキャンペーンを通じてみんなでSRHRについて学び、一緒に取り組んでいけたらと思っています」

高橋幸子

産婦人科医。山形大学医学部医学科卒業。埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター/産婦人科/医学教育センター助教。一般社団法人彩の国思春期研究会代表理事。年間200回以上全国の学校で性教育の講演を行うほか、性教育の普及や啓発に尽力する。著書に『サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』(リトル・モア)、監修本に『10歳までに知っておきたい まんがでわかる! 子ども防犯性教育』(KADOKAWA)など。

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