SRHRの「あたりまえ」を支えるもうひとつの力〜ジョイセフの取り組み
INTERVIEW
(Release)2025年11月28日
2025年より新たに開始した「SRHR for JAPAN」キャンペーン。その一翼を担う団体のひとつに、国際協力NGOのジョイセフ(JOICFP)があります。1968年の設立以来、ジョイセフは日本国内外で、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の推進に取り組み続けています。
「ジョイセフは“SRHR for All”、すべての人のSRHRが守られる社会の実現を掲げ、政策提言や市民への情報発信を通じて活動してきました」と語るのは、シニア・アドボカシー・オフィサーの草野洋美さんです。今回のキャンペーンは、政策と現場、そして若者の声をつなぐ橋渡し役として、中心的な役割を担っています。
包括的性教育の普及が急務

ジョイセフが今、最重要課題と位置づけているのが「包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education)」の推進です。「これは、性や生殖の健康に関する知識にとどまらず、セクシュアリティ、人権、健康的で互いに尊重する人間関係、ジェンダー平等、反差別、暴力と安全、同意といった幅広いテーマを含んだ教育です」と草野さんは説明します。国連機関も推奨するこの教育は、すべての子どもや若者が自分そして他者の心身と人生を大切にし、尊重する土台となるものです。
しかし日本では、1990年代から2000年代初頭にかけて展開された「ジェンダーフリー」および「性教育」へのバッシングの影響が、現在も教育現場に根強く残っています。
保守系メディアや政治家、宗教系諸団体により、ジェンダー平等や性教育への反発や攻撃が強まり、教育現場への介入が行われました。「ジェンダーフリー」という用語自体が「家族解体」や「性差否定」といった誤解とともに言葉狩りの対象となり、性教育に対する過剰な批判が全国に波及しました。これにより、文部科学省や教育委員会は性教育に対して慎重な姿勢を強め、教育現場では萎縮が広がりました。いわゆる『はどめ規定』と言われるのがそれにあたります。その結果、「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」(小学校理科)、「妊娠の経過は取り扱わないものとする」(中学校保健体育)といった内容が明文化されました。この規定は、現在に至るまで教育現場に影響を与えています。
このような状況を打破するには、教育現場だけでなく、保護者や地域社会、そして政治のレベルでも性教育の重要性を理解し、支える必要があります。
「社会全体で子どもたちの『知る権利』を守るという視点が欠かせません」と草野さんは訴えます。
「生命の安全教育」との違い
最近では、「生命(いのち)の安全教育」が文部科学省を中心に進められています。これは、性暴力の加害者・被害者・傍観者を出さないための教育であり、一定の前進とも言えます。しかし草野さんは、その限界についても指摘します。
「生命(いのち)の安全教育ももちろん重要ですが、それだけでは不十分です。包括的性教育は、性をリスクや危険なものではなく、人生を肯定的にとらえる力を育てる教育でもあります。人権意識、関係性の築き方、自己決定力、ジェンダー平等、性的同意、性の多様性などを含む幅広い内容を扱い、子どもたちが自分自身と他者を尊重しながら、健全な人間関係を築く力を育てる必要があります」
教育の現場においても、多くの教師たち自身も性教育を学校で受けたことがありません。研修の機会もまだまだ十分とは言えず「先生たちが安心して授業できる環境づくりも欠かせません」と草野さんは言います。
ソーシャルメディアが開く対話の扉

こうした教育の不足を補う手段として、ジョイセフはソーシャルメディアを積極的に活用してきました。「I LADY.」プロジェクトでは、主にInstagramを通じて、科学的根拠があるわかりやすいSRHR情報を若者に届けています。
「SNSには、もちろん功罪はありますが、匿名性や気軽さによって、検索や共感を通じて自分の知識を深められる利点があります。性に関する情報をタブー視せず、自分自身のこととして向き合える環境づくりに役立っています」と草野さんは話します。加えて、若者のロールモデルとなるインフルエンサーや当事者の声を発信することで、より親しみやすく、リアリティのある情報が広がっていくと言います。
SNSでの発信によって、今までアクセスできなかった若年層や地方の若者にも情報が届くようになりました。「自分たちの気持ちや疑問を知識に変えていく場」としてのSNSの役割の重要性も改めて認識されています。
若者の声が社会を変える――ユースアライアンスの力
ジョイセフでは、若者自身が自らの課題を訴えることが、社会を変える原動力になると考えています。2021年に立ち上げた「SRHRユースアライアンス」は、全国の18〜29歳の若者約80人がメンバーとなり、緊急避妊薬の市販化や包括的性教育の導入を求めて、議員との対話や発信活動を行ってきました。
「若い人が当事者として声をあげると、政治の反応も変わります。2020年の第5次男女共同参画基本計画策定の時には、選択的夫婦別姓の実現を求める若者の声が、当時の男女共同参画担当大臣、橋本聖子議員に届きました。ユースとの対話を通じて、かつて反対していた選択的夫婦別姓について賛成の立場に転じたのです」と草野さん。変化の芽は、確実に育っています。
また、ジョイセフでは2年に一度「性と恋愛」と題する意識調査を行っています。第4回となる2025年度版では、15〜29歳の若者(4,958人)と30〜64歳の大人(4,060人)、あわせて約9,000人から回答を得ました。この調査では、現代のリアルな恋愛・結婚・家族観に加え、性やセックスに対する意識、避妊や性感染症予防に関する本音、そしてセクシュアル・ヘルスについての考え方が明らかになっています。また、性に関することについて、自分自身で人生の選択ができるかどうか——つまり「性の自己決定権」に関する意識も問われています。
こうした調査によって、個人の経験がデータとして社会に訴える力へと転換されるのです。
多様な人々と連携するネットワーク
ジョイセフは、全国各地の市民団体や自治体と協力しながら、啓発イベントや研修、教材の提供などを行っています。「ホワイトリボンラン」はその象徴的な取り組みであり、毎年数千人が参加し、女性の命と健康の大切さを伝えています。

また、2025年には、いろんな団体、メンバーと協働でSRHR for ALLアクション!というネットワークを立ち上げました。「SRHR for ALLアクション!」は、インターセクショナリティの視点を大切に、誰もが自分と他者の心と身体を尊重し、自分らしく生きられる社会を実現するために、ジェンダー平等やSRHR、LGBTQ+、SGBV(ジェンダーに基づく暴力)に取り組む団体、ユース、専門家、アカデミア、メディア、企業、性の学びを必要とする個人と共に性的同意やCSE(包括的性教育)を含むSRHRの政策提言、情報周知、ワークショップ実施、オンラインキャンペーンなどを実施します。
SRHRを社会の中心に据える未来へ
今後もジョイセフは、SRHRに関する活動を行う市民社会団体や自治体とも連携し、学校現場での実践を増やしていく方針です。
「ジェンダー平等の推進という観点からも、SRHRの実現は重要です。自分の身体や人生を、正確な情報と適切なサービスが受けられる状況で、選択できること。ライフステージのどの時点にいても、自分の意思で人生を選択できる社会が必要です」と草野さんは強調します。SRHRは社会構造そのものを問い直す視点を提供しているのです。
草野さんは最後にこう語ります。「SRHRは特別な人のための権利ではなく、私たち、そう、すべての人のものです。だからこそ、私たちは一人ひとりが、知ること、語ること、行動することを後押ししたいと思っています」
今、ジョイセフは「SRHR for ALLアクション!」のメンバーと連携しながら、刑法改正や包括的性教育の義務教育導入といった長期的な目標に向けて歩みを進めています。市民の声と行動が、未来を変える力になる。その信念のもとで、SRHRの「あたりまえ」を社会に根づかせようとしています。


