Noと言える社会のために、個人の感覚に蓋をしない〜みたらし加奈さん

INTERVIEW

(Release)2025年11月25日

*この記事には、一部の読者にとっては心理的に苦痛を伴う可能性のある内容が含まれています。閲覧に際してご自身の安心感を第一に考え、心理的な負担を感じる場合は無理をせず、安全な範囲での閲覧をご検討ください。

性暴力と聞いて、どんなことをイメージしますか?「暗い道で急に見知らぬ人から襲われる」という場面を思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。

しかし同意のない性的な行為はすべて性暴力であり、年齢や性別にかかわらず、身近な人、たとえば恋人同士の間でも起こるものです。盗撮や痴漢、相手が避妊に協力してくれない、性的な画像を見せられる、先輩に無理やり風俗店に連れて行かれるなど、「片方が望まない性的な行為」はすべて性暴力に当たります。性暴力は決して遠い世界の話ではなく、私たちの身近にあるものなのです。

私たち一人ひとりが性暴力を自分ごととして考えるため、そしてお互いの心と体を尊重し合う社会を実現するために、臨床心理士/公認心理師のみたらし加奈さんに話を聞きました。

性暴力は、決して遠い世界の話ではない

現在、臨床心理士/公認心理師としてカウンセリングを行うとともに、性的同意やLGBTQ+、メンタルヘルスなどに関する情報発信をしているみたらしさん。性暴力や性的同意に関する情報を配信するNPO法人「mimosas(ミモザ)」では代表副理事を務め、本サイトで公開中の性的同意に関する対談動画にも出演しています。

「mimosasは『性暴力の被害に遭った時にどこへ相談すればいいか分からない』という声を受けて、専門家が監修した情報を届けようという思いからスタートしました。活動の一つとして、10代の人たちを対象に性暴力や性的同意について学べるハンドブックを作り、全国の自治体に配布しています。知識を深めてもらうだけでなく、恋人や親密になりたい相手と一緒に話し合うきっかけにしてもらえたらと思っています」

「MIMOSAS HANDBOOK」は、性暴力や性的同意について解説するとともに、性被害に合った時にできることや相談先リストも掲載している。

知識と実践は比例しないことがある

性的な行為に対して、お互いの気持ちを確認しあうこと=「性的同意」は、一人ひとりの心と体を尊重するSRHR(性と生殖に関する健康と権利)に不可欠なもの。SRHRについて、みたらしさんはどんな印象を持っているのでしょうか。

「近年の傾向を見ていると、緊急避妊薬など、自分の心身を守るための手段について知っている人は増えたと感じています。一方、『自分の体と心は自分だけのもので、それを誰かに侵害されることはあってはいけない』という意識はまだまだ浸透していないような気がします。

SRHRについて知っていたり関心があったりする人たちでさえ、日常生活においては自分を置き去りにしたり、嫌だという気持ちを我慢していたりすることも。SRHRへの関心の高さと、その知識が日常で実践されているかどうかは必ずしも比例していないなという印象はあります」

自分の心と体の権利が尊重されている実感が持てない。こうした人がいまだに多い現状の背景には、望まない性的行為に関して“No”といえない社会構造や文化があるのでは、とみたらしさんは話します。

「たとえば生理になって体調が本当に悪いけれど、職場に休みを切り出せない人もまだまだいますよね。性的な行為や言葉がけに関しても、本当は嫌だけれど言わないほうがその場が丸く収まると思って“No“を飲み込む人もいるでしょう。多くの人が自分の痛みや不快感を押し殺し、なかったことにするのが癖になっているのではないでしょうか。

でも、嫌だった気持ちはその時どんなに我慢したとしても、蓋をして箱を閉じた状態でずっと自分の心の部屋の隅に置かれているんです。放置し続けるとだんだんガスが漏れて爆発することだってありえます。決して“なかったこと”にはできないはずなんです」

まずは自分の「好き」と「嫌だ」を見つめ直す

“No”と言いづらい社会の中では、性暴力の加害も被害も無自覚に生まれてしまう可能性があります。こうした世の中を変えていくためには、どんなことが必要なのでしょうか。みたらしさんは、社会や組織が変わる必要があるのと同時に、個人レベルでもするべきことはあるといいます。

「まずは、自分の“Yes”と“No”が分からなくなっている状況に疑問を持つことから始めることが大事だと思います。『私って本当は何が好きなんだろう』『何をされたら嫌なんだろう』など、あらためて自分の気持ちを見つめ直すことも必要です。

日常の人とのコミュニケーションなどにおいてモヤモヤした時に、それに蓋をしてしまわず、いったん立ち止まってみる。そのモヤモヤをすぐに相手にぶつけて喧嘩すべきということでは決してなく、『私はこういうことが嫌なんだ』って自覚するだけでいいんです。それは相手と自分の距離の取り方を学んでいくこと、つまり自分のバウンダリー(=他者との間の身体的・心理的な境界線)を見つけることになります。

もし一人でその作業をするのが難しい場合は、心理カウンセリングを利用するのも手だと思います。カウンセリングというと大きな悩みを抱えた人が受けるもの、というイメージが強いかもしれませんが、私はバウンダリーを見つける作業の一つでもあると思っているんです」

モヤモヤしている自分を責めない

まずは自分の快・不快やバウンダリーを見つけることから。それが分かると、直接相手に伝えるといった実際の行動に移さなくても、周りの人との関係も変わっていくはず、とみたらしさんは話します。

「自分の感覚や価値観が変わると、自分で意識しなくてもアウトプットが変わることもあります。たとえば『恋人とのことを根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だったんだ』って気づくことができたら、それ以降はなんとなく話をそらすことができるかもしれません。そうすると周りも次第に聞いてこなくなる場合もある。そんなふうに、自分の変化によって相手の言動が少しずつ変化していくこともあると思います。

長年不快感やモヤモヤを押し殺してきた人が、急に相手に直接“No”というのは難しいことです。まずはモヤモヤに蓋をせず、なぜそう思ったかを考えてみる。そうやって自分の”Yes”と“No”を探り当て、感覚が変わっていくことが第一歩だと思います。それでも相手が全く変わらなければ、それについて少しずつ話し合ったりとか、相手の気持ちを聞いたりするというのが第2ステップになるのかなと。

大事なのは、モヤモヤした自分を責めないこと。『自分に余裕がないから』『相手に悪気はないのだから』って思いがちだと思うんですが、『たとえ相手に悪気がなかったとしても、自分はモヤモヤした』というように、主語に“自分”を持ってきてあげてほしいです」

一人ひとりが「行動する傍観者」に

一方、上司と部下、先輩と後輩といった権力構造が働く場での行為や、公共の場での盗撮や痴漢など、より“No”を発信しにくい状況での性暴力も存在します。

「こうしたケースを加害者と被害者の二者関係に落とし込むと『被害者にもっとできたことがあるんじゃないか』という議論が出てきてしまう。だからこそ、第三者の存在がとても重要になってきます。傍観すること自体が権力構造や性暴力に加担しているという意識をみんなが持ち、一人ひとりが“行動する傍観者”となって介入することが大切です。

加害者に直接“No“と言ったり、加害者を排除することだけが介入ではありません。例えば、その場で飲み物を倒したり傘を倒したりして注意を引きつける、別の話題をふる、加害者よりも上の立場の人に状況を説明して止めてもらう、後で被害にあっていた人に声をかけるなど、いろいろな方法があります。そうやってみんなで介入しあっていくことが、加害行為を止めることにつながっていくはずです」

心のケアをすることがSRHRの土台に

性暴力のない社会にしていくために、私たちが今日からできることを教えてくれたみたらしさん。お互いの心と体を尊重し、誰もが“No”と言える社会を実現するには、子どもの頃から自分の心や体、生き方を否定されない教育を受けることが大事だと話します。同時に、臨床心理士としてメンタルヘルスケアの重要性を強く感じているそうです。

「日本にはまだメンタルヘルスケアという習慣が根づいていません。自分の心と体の状況をモニタリングせず、快・不快が分からなくなっている人は多いと思うんです。みんなに心をケアすることの大切さを認識してほしいし、子どもも含め、誰もがカウンセリングなどの専門機関にアクセスしやすい社会になってほしいです。

性って“心”に“生きる”って書きますよね。心が健康な状態で、生きている実感があるということは、自分にとっての快・不快が明確に分かっていること。それが土台にないと、性的な行為に関しても自分の“Yes”や“No”が分からなくなってしまうと思うんです。心の健康とSRHRは密接に結びついていると思います。

自分の“Yes”や“No”を知るために、日常生活においても小さな違和感に気づくことから始めてほしいです。たとえば『ちょっと寒いな』と思った時に、何かを羽織ったり、周りの人に断って室温を調節したりできるか。あるいは面倒くさいと思って、もしくは周りに気を遣って何もしないか。人間関係、そして性的な行為において“No”といえるかどうかは、そうした日常の些細なこととつながっているのだと思います」



みたらし加奈

臨床心理士・公認心理師。大学院卒業後、総合病院の精神科に勤務し、その後、私設カウンセリングルームなどの経歴を経て、「神泉こころカウンセリング」を設立。 メディアにてコメンテーターとして活動しながら、SNSを通して精神疾患やLGBTQの認知を広める発信、講演会を行なう。 また、専門家と共に性被害や性的同意に関する情報を発信するメディア『mimosas(ミモザ)』の代表副理事も務める。

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